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MARSBERG SUBWAY SYSTEM「Pathfinder」 2022.6.12. @Spotify O-crest

去る5月8日、ひとつのロックンロール・バンドが産声を上げた。その名も、MARSBERG SUBWAY SYSTEM。結成の報せと共に公開されたミュージック・ビデオから伝わってきたのは、前のめりな意気込みよりも、拭い切れない哀愁と、堪えられない渇きだった。それらがぶつかり合って生まれたエネルギーが、何度も何度も火花を散らす。まるで、惑星の誕生のように。

そして6月12日渋谷・Spotify O-Crest、彼らはいよいよ私たちの前に姿を現した。真っ赤な光に照らされてステージに立った4人は、想いを確かめ合うように視線を合わせる。すると次の瞬間、目の覚めるような轟音が会場を駆け巡った。「行こうぜ!」と鬨の声を上げたのは、炎のような真っ赤な髪でマイクを握る、現在活動休止中のTHE PINBALLSのヴォーカル・古川貴之。そして彼の左右に陣取るのは、Outside dandyとして共に活動していた松本翔(ギター)と、鈴木勇真(ベース)。そして殿を務めるのは、休止中のJake stone garageのドラマーであり、複数のバンドで活躍する岩中英明。この4人がひとつのバンドになるなんて、一体誰が予想できただろう。このメンバーが揃っただけで、生粋のロックンロール・バンドであることは明白だ。

ライヴの幕開けは、バンド名を冠した「MARSBERG SUBWAY SYSTEM」。個々の持つポテンシャルをいかんなく発揮するようなアグレッシヴなロック・チューンだ。だけど勢い余って荒削りになることはなく、リズム隊を筆頭にどっしりと安定感のあるグルーヴで攻める。そのまま、濃厚なダンスナンバー「金星」へ突入。松本・古川両名による激しいギターの応酬は、超満員のフロアの熱をこれでもか!と上げてゆく。「悪魔の曲を」と前置いて始めた「walking dude」は、古川のニヒルな歌いっぷりがなんともセクシーだ。さらに鈴木のベースも圧巻。おどろおどろしく蛇行するベースラインが曲の持つ怪しげな雰囲気を増長させる。間奏では古川にコールされ、ソロを披露する場面もあり、存分にその存在感をアピールして見せた。

そして訪れたMCタイム。メンバーの口から何が語られるのだろう、とフロアに少しの緊張が走る。すると古川はまず、メンバー紹介を始めた。名前を呼ばれたメンバーは、それぞれ真っ直ぐにフロアを見つめて挨拶をする。ライヴではよくある光景だが、この日はとても特別なことのように思えた。初ライヴにしてソールドアウトという快挙に対し、古川はそれぞれが所属してきたバンドの活動があってのことだと語った。そして、それは同時に会場にいる全員が多かれ少なかれ痛みを抱えて、この瞬間に立ち合っていることを意味する。夢を託したバンドを志半ばで断念した痛みと、愛すべきバンドを失った痛み。おそらく、そのどちらもが完全には癒えていない状態での初舞台だっただろう。だからこそ、彼はかつてステージを共にしたメンバーや、当時から交流の合ったバンド仲間への感謝を口にした。なかったことにするでも、過去に蓋をするでもなく、痛みも悔しさも全部抱えたまま新しい夢を見るのだ、と。会場に駆け付けた多くの人に対し、できるだけ誠実でありたいと願う一心で、拙いながらも丁寧に古川はその想いを語った。

MC明けに披露された「0.14パーセントの星屑」は、大空へ羽ばたいていくような颯爽としたギターリフが印象的で、新たな門出に相応しい晴れ晴れとしたサウンドが会場へ響き渡る。ちなみに0.14という数字は、太陽系の中で太陽以外の惑星が占める割合だという。この限りなくゼロに近い数字を「ゼロじゃない希望」と呼び、希望の歌のタイトルにしているのが何とも古川らしい。そしてTHE PINBALLS休止後、最初に作ったという「シャーリーブラウン」は、所在の無さを感じながらも何かが起こりそうな期待をポップなメロディーに閉じ込めた甘酸っぱいナンバーだ。岩中の奏でる軽快なビートにつられ、フロアからは自然と手拍子が巻き起り、スウィングを誘うベースラインも手伝って、心地良く体が揺れる。松本と古川が顔を寄せ合いひとつのマイクで歌う場面もあり、和気藹々とした空気がステージから観る者へと伝播していった。

その後一転してヘヴィなガレージ・ロック「タイタンの妖女」で骨太のバンドサウンドを鳴らし、いよいよ最終フェーズに突入。「正直言うと、立ち止まりそうになることもあった」と、再び古川が胸の内を吐露する。けれど「今生きているこの時間が幸せ」と、改めてこの日を迎えられた歓びを伝えた。そして始めた「昨日の未来」では、4人の演奏が支え合いながら、ひとつになっていくのが良く分かった。ブルージーなギターリフは感情のままに唸り、ベースラインは鼓動のように温かく、ドラムは地に足をつけてしっかりと踏ん張る。そして、それらのエネルギーを一身に背負って遥か彼方まで届けるような真っ直ぐな歌声。それは、かつての長い時間を共にしたメンバーがそうであったように、今はこのメンバーこそがかけがえのない存在であり、今の4人だからこそ鳴らせる音が確かにあるのだと物語るようだった。

ラストは「太陽と雲雀」。イントロから松本のお家芸とも呼べる泣きのギターが炸裂すると、思わず視界が滲んだ。彼のギターをこの会場で聴くのはOutside dandyの解散ライヴぶりだったこともあり、つい感慨深くなってしまった。そして、バンドサウンドは初ライヴとは思えないレベルで円熟し、全身の力を振り絞って歌う古川も然り、あらゆる想いを受け止めて、どこまでも力強く優しく鳴り響く。そこにはバンド結成と共に公開されたミュージック・ビデオに漂っていた僅かな心細さは、もうなかった。代わりにあったのは、このバンドが確かに未来を紡いくであろう安心と、心からの祝福だ。バンド活動は、いばらの道。いつ何が起こるか分からない。それでも、痛みを乗り越えて帰ってきた彼らになら、性懲りもなくまた夢が見られる。そう確信した夜だった。

(文=イシハラマイ)

 

[ SETLIST ]
1. MARSBERG SUBWAY SYSTEM
2. 金星
3. walking dude
4. 0.14パーセントの星屑
5. シャーリーブラウン
6. タイタンの妖女
7. 昨日の未来
8. 太陽と雲雀
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